ライフスタイル

北欧現地便り

糸と古布に命を吹き込む

古布で出来ているスウェーデンのラグ織物“トラースマッタ”

スウェーデンの人々は、とにかくものを大切にします。何かが故障したとしても、第一選択肢 として“捨てる”という考えは浮かばず、まずは『直せるかどうか?』思案し、試してみたりするのです。使い古した布や着古した衣類に関しても同様で、昔の人々はそれらの古布を粋な形で再利用する技を編み出していきました。その典型的なものが、スウェーデンのラグ織物【Trasmatta】トラースマッタ。直訳すると“ぼろ布絨毯”という意味で、その名の如く、古くなったボロ布を細長く切り裂いて織りこみ、マットへと変身させていったのです。

古布で出来ているので家でも気軽に洗濯することが可能。日本と同じく家の中では靴を履か ずに生活をする風習なので、こういった製品は、本当に重宝するのです。もともとは床に敷くのではなく、寝具として愛用されていたそうなのですが、隙間風の多かった昔の家々では、防寒グッズとして、より絨毯っぽいものへと姿を変えていきました。またこれらのマットが敷かれ始めると、嗅ぎ煙草を嗜好していた男性らも床に唾することが出来なくなり、家の中もきれいになっていったそうです。

トラースマッタを織るのには、【鶴の恩返し】に出てくるような大きな織り機が必要です。一部屋一部屋サイズの広い北欧では、織り機が置かれていても、そんなに大きな印象は受けないのですが、幼い頃日本のお宅で拝見したスウェーデン織機はとてつもなく巨大に感じられたもの。

高機(たかばた)と呼ばれる、それら大型の織機以外にも、場所の取らない卓上タイプの織り機も存在します。スウェーデンの幼稚園には、こういった卓上織機のおもちゃなどがあり、子供たちは幼い頃から糸を織りこんで“物を作る”という事を学んでいくのです。

織り機を通して命が吹き込まれる製品には、トラースマッタ以外にももっと小さめのテーブルランナーなどが挙げられます。いろんな色の糸を織りあわせて模様にし、細長い食卓掛けや掛け布として使われるもので、スウェーデンのご家庭には数多く存在します。糸の種類や草木染など、色の組み合わせによって全く違う印象になり、ものによってはそのままタペストリーとして壁にかけておきたくなるくらい素晴らしい作品もあるものです。

物を大切にする心と光るセンスによって生み出された、スウェーデンの伝統手工芸。次の世代、そしてまたその次の世代へと受け継いでいってもらいたいものですね。

スウェーデンのお宅でよく見られる庶民派絨毯・トラースマッタ
スウェーデンのお宅でよく見られる庶民派絨毯・トラースマッタ
足踏み式の大型スウェーデン織機
足踏み式の大型スウェーデン織機
足元にある踏み木を踏んで糸を開口させるスタイルの織り機
足元にある踏み木を踏んで糸を開口させるスタイルの織り機
糸を交互に通し、一列一列根気強く織りこんでいく
糸を交互に通し、一列一列根気強く織りこんでいく

TEXT : もみの木ちえ

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