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北欧現地便り

クリスマスプレゼントにもぴったり。歴史あるカレンダーキッチンタオルの昔と今

北欧の人たちはもちろん、世界中がクリスマスを待ち望み、いそいそと準備に力をいれる季節ですね。フィンランドでは、大人から子どもへという一方方向ばかりではなく、ある程度子どもたちが成長した家族の中では、子どもからも両親や兄弟姉妹のひとりひとりへ、ささやかなプレゼントを用意してイブの夜に交換しあう風習があります。プレゼントには、手編みのマフラーや帽子を用意する人もいるし、相手が喜びそうな本を調達するのも定番。そしてお母さんにはやっぱりキッチン用品や日用雑貨が喜ばれるものです。

そんなクリスマスプレゼントにもぴったりの、年末が近づく頃から出回るロングセラーアイテムが、フィンランド語でKalenteripyyhe(カレンテリピューへ)と呼ばれる、通称カレンダーキッチンタオル。読んで字のごとく、来年のカレンダーがプリントされたキッチンタオルのことです。もちろんただ月名と数字が並んでいるだけでなく、余白が素敵なイラストでデコレーションしてある、まさに立派なデザインアイテム。このカレンダーキッチンタオルは、実は世界で最初にどこのテキスタイルメーカーが始めたのかもわかっていませんし、フィンランドに限らず欧米のさまざまなメーカーが1950頃から作り始めて定着したひとつの土着文化といえます。

歴代のカレンダーキッチンタオルを集め続けてきたヤーナさんのコレクションが一堂に会した展示会の様子【写真提供:Jaana Tirri】

そのルーツに関してはいろいろと不明なことが多く、残念なことに近年ではやや見かける機会も減りつつあるキッチンタオル文化ですが、今年の夏に、これまで国内生産されていた歴代カレンダーキッチンタオルを地道に集め続けてきた手芸家のJaana Tirri(ヤーナ・ティッリ)さんが、 フィンランド東部のルオコラハティという街の手芸ギャラリーで、ご自身のコレクション約50点を公開するという、ユニークな展示会を開催。その様子は地元紙などにも取り上げられ、全国各地に存在するキッチンカレンダーファンからの反響も大きかったといいます。そのヤーナさんに、フィンランドのキッチンタオルの魅力や歴史、ご自身のコレクションのエピソードなどについて語っていただきました!

展示会のようすを報じた地元新聞。「キッチンカレンダータオルの50年」という展示会名は、ちょうど今年50歳を迎えたヤーナさんが、自分の生まれ年から今年までのキッチンタオルを紹介したことが由来になっている【写真提供:Jaana Tirri】

彼女が所有するカレンダーの中でもっとも古いのは1965年のもので、実はこれはヤーナさんの生まれ年。彼女が自立して実家を出るときにお母さんが持っていたものを記念にプレゼントしてくれたのだそうです。そのタオルには品質表示のタグがついているだけで、どこのメーカーのものかもわからないのだそう。実は、カレンダーキッチンタオルの全盛期と言える1970〜90年ごろに作られた製品には、メーカーや作り手が不明のものも多く、シルクスクリーンプリントを行なう無名の工場や手芸家がひっそり作っていたり、大学や一般企業が記念ノベルティとして作っていたことがわかるものもあるのだそうです。

なぜ、キッチンタオルにカレンダーなのでしょう?という素朴な疑問に対しては、「だって、キッチンが生活の場になっているお母さんにとっては、壁やオーブンの取っ手にカレンダーが引っ掛けてあるとよく目につくし、日ごろ手に取るもので時の流れや季節感が認知できると便利でしょう」と!なるほど、細かな予定の書き込みはできないけれど、日々のスケジュールよりも家族行事や季節の移ろいのほうが大事なお母さんたちは、作業の合間にカレンダーをふと目に留めては、「そろそろ娘の誕生日ね」とか「もうすぐクリスマスの準備をしないと」などと、次々に巡ってくる歳事を意識したりするものなのかもしれませんね。

ヤーナさんが毎日立つキッチンでは、もちろん今年度のカレンダーキッチンタオルが活躍【写真提供:Jaana Tirri】

通常のカレンダーは、その年が終わってもずっと保管される、ということはほとんどありませんが、キッチンタオルなら一年後もまだまだ本来の役目を果たしてくれるし、歴代のをずっと取っておくのが楽しいのよ、とヤーナさん。彼女にとってカレンダーキッチンタオルは、後で一枚一枚を手にするたびに、それを入手したときのことを思い浮かべると同時に、その一年の思い出やエピソードをあれこれ思い出すきっかけになるのだと言います。実はヤーナさんが現在所持するキッチンタオルのほとんどは、もともと彼女のお母さんがセレクトしたもの。というのも、彼女とお母さんはいつしか、お互いに選んで買ってきた翌年のカレンダーキッチンタオルをクリスマスプレゼントとして交換する、というのが毎年12月の恒例行事になっているのだそうです。現在、過去の古いカレンダーキッチンタオルは、希少なヴィンテージ品として高値で売り買いされていたりもするようです。けれどヤーナさんのコレクションは、これまで年を重ねるごとに少しずつ手元に増えてきた一枚一枚に、その年の思い出とお母さんの愛情が宿っていて、まさに唯一無二の価値をもったヴィンテージ・キッチンタオルばかりなのです!

ヤーナさんの生まれた1960年代のヴィンテージ作品たち。レトロなだけでなく、一枚一枚に楽しい個性が光る【写真提供:Jaana Tirri】

ではこの50年の間に、カレンダーキッチンタオルのデザインはどのように移り変わっているのでしょう。ヤーナさんのコレクションを見せていただくと、もちろんプリンティング技術の向上によって、インクの発色やきめ細やかさはどんどん進歩していますが、デザイン自体は今も昔も甲乙つけがたい美しさやバラエティの豊かさ。モチーフとしては、自然界の動植物や、四季の風物詩、身近な日用品の形をあしらったものがいつの時代も多いようですが、ヤーナさんはとりわけ、カレンダー部分が整然としていて見やすく、かつカラフルではつらつとした色合いとデザインが多い、1970年代の作品がお気に入りなのだそうです。

ヤーナさんお気に入りの、鮮やかな色使いの1970年代の作品たち【写真提供:Jaana Tirri】

カレンダーキッチンタオル文化は、1980年代をピークに生産する会社も減り、少しずつ影を潜めつつありますが、今日でも現代らしいデザインの作品を作り続けているメーカーももちろんあります。その代表格が、2008年の創業以来、フィンランド国内外で着実に注目を集めファンを増やしているヘルシンキ発のテキスタイルブランド、Kauniste(カウニステ)です。創業当初から、若手デザイナーたちの多彩なデザインのキッチンタオルを主力商品として制作してきたカウニステでは、2010年版からカレンダーキッチンタオルの制作販売を開始。年々、翌年のデザインを楽しみにしてくれるお客さんも増え、今年はなんと8月から次年度カレンダーの問い合わせがあったのだとか! クリエイティブ・ディレクターを務めるMilla Koukkunen(ミッラ・コウックネン)さんによると、カウニステでカレンダーを作り始めたきっかけは、「私たち自身もヴィンテージのテキスタイルが大好きで、その世界でかつてはとても人気があったカレンダーキッチンタオルの文化を、現代のテキスタイルブランドとして継承していくことは面白いアイデアと思ったから」なのだそう。

ハカニエミ市場100周年を意識したカウニステの2014年版カレンダーキッチンタオル。人気イラストレーターのサンナ・マンダーによるデザイン【写真提供:Kauniste】
絵本のイラストレーターとして活躍中のマリカ・マイヤラがデザインを手がけた、カウニステの2016年版の新作カレンダーキッチンタオル。【写真提供:Kauniste】

年作り続けていくカレンダーのモチーフやデザインに対して、カウニステとしてのこだわりやイメージはありますかという質問に対しては、「こうあるべきという指針や、毎年のデザインに共通する統一的なイメージはなく、その年のデザインを委ねるデザイナーの自由なアイデアやスケッチをもとに、毎年白紙の状態からモチーフやデザインを決定していきます。」とのこと。例えば2014年の作品で全体的にtori(市場)がモチーフになっているのは、その年がヘルシンキの有名なハカニエミ市場が100周年を迎える年だったから。いっぽう、今秋に販売を開始した来年2016年のデザインは、子供の絵本のイラストレーションを多く手がけるデザイナー、Marika Maijala(マリカ・マイヤラ)さんが担当。彼女の得意とする動物たちをモチーフにした遊び心あふれるイラストが採用されました。

このように今も昔も、作り手と使い手の、一年ぶんの思いやエピソードが宿ったカレンダーキッチンタオル。今年ももうまもなく、フィンランドのあちこちのお宅のキッチンで、一年間お疲れさまでした、と今年のから来年のへと世代交代がなされるシーズンですね。あなたもぜひ、お母さんや料理好きの友達へのクリスマスプレゼントに、いかがですか。

【取材協力店】

Kauniste Finland(カウニステ)
ヘルシンキ本店住所:Fredrikinkatu 24, 00120 Helsinki, FINLAND
営業時間:火〜金 11:00〜18:00、土 11:00〜16:00
定休日:日・月
HP:http://www.kauniste.com

TEXT : こばやしあやな

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