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北欧現地便り

お宝マグ&スケッチ満載! ヘルシンキで開催された、ムーミン・マグ特別展

日用品であり、ヴィンテージ品でもあるムーミン・マグシリーズ

フィンランドの陶器ブランド、アラビア社からかれこれ過去25年にわたって販売されている、ムーミン谷の個々のキャラクターたちやお話のワンシーンのイラストがあしらわれた色とりどりのムーミン・マグ。以前にフィンランド家庭に欠かせないアイテムBest5のひとつとして紹介したとおり、このムーミン・マグはフィンランド人家庭の食器棚には必ずいくつかあって、お気に入りマグでコーヒーを飲むのが人々の日常です。誕生日やクリスマスプレゼントの定番商品でもあります。

実は1990年に最初の4作品が発売されて以来、今日までには全部で60を超えるデザインのムーミン・マグが世に出回っているにもかかわらず、その多くはもう廃盤になっていたり、シーズンものだったり、店舗限定だったり、なにかの記念年にかこつけた希少な限定品だったりするので、とりわけ近年はコレクション対象としての価値を強めています。今年のはじめには、国内のネットオークションでこれまでのムーミン・マグ全種を取り揃えたコレクションがなんと10,600ユーロ(約150万円)で競売にかけられ、ニュースで話題になったほど。身近なところでも、知人宅をうかがったときにお宝ムーミン・マグが食卓に登場してにわかに場が沸いたあと、「でも、当時はそんなこと考えず買って普通に使っていたのに、今やもう貴重なものだから使うのをやめて、もっぱら観賞用や見せびらかし用になっちゃっているの…」と告白されることがたびたびあります。

製菓会社ファッツェル社とのコラボレーション・クリスマスマグ
希少価値の高いお宝ムーミン・マグのひとつである、2004年に出された製菓会社ファッツェル社とのコラボレーション・クリスマスマグ
初代ムーミン・マグの初期試作色バージョン
こちらは1990〜93年に販売された貴重な初代ムーミン・マグの、さらにめったにお目にかかれない初期の試作色バージョン

こんな仰天の新現象が巻き起こりつつあるなか、ムーミンの生みの親であるトーヴェ・ヤンソンの生誕100周年を記念して、この夏ヘルシンキにあるアラビア社のファクトリー内ギャラリーにて公開されたユニークな特別展が話題を呼んでいます。その名も、「Mug with a story to tell - Moomin 物語を秘めたマグカップたち ームーミン展」。ムーミン・マグの過去25年に渡る全販売作品を展示するとともに、デザイナーの創作への思いやデザインが完成するまでのプロセスなどを惜しみなく公開した、全世界のムーミン・マグファンをときめかせる内容の企画展です。とはいえ、日本からでは足を運ぶチャンスに恵まれる人も少ないと思うので、展示会の内容を追いながら、ムーミン・マグの知られざる製作現場の秘密をここでご紹介しましょう。

あらゆるムーミン・マグが一堂に会した、ファン垂涎の特別展
これまで25年にわたって販売されてきたあらゆるムーミン・マグが一堂に会した、ファン垂涎の特別展。ヘルシンキのアラビア社ファクトリー内ギャラリーで2014年6月5日〜8月31日まで無料で一般公開される
ヘルシンキ郊外にあるアラビア社のファクトリー
ヘルシンキ郊外にあるアラビア社のファクトリー。右手奥の釜は365日稼働を続ける。1階にはファクトリーショップも
子どもがすっぽり入れそうな特大サイズのムーミン・マグ
9階のギャラリーへと運んでくれるエレベーター前では、子どもがすっぽり入れそうな特大サイズのムーミン・マグたちがお出迎え

白い壁や卓上にリズミカルに展示された、歴代マグや試行錯誤の軌跡

エレベーターでアラビアファクトリー内9階に到着すると、すぐ目の前からムーミン・マグの特別展が始まります。歴代のマグは、カテゴリーごとに同じ壁や卓上で展示されています。貴重な初代ムーミン・マグである90年代の作品、2006年から現在まで毎年1パターンずつ発売されている夏・冬それぞれのシーズン作品、個々の主要キャラクターごとに作られた馴染みある現行品、そしてファン垂涎の入手困難な限定デザインの作品……といった具合。

それぞれのマグは透明のカプセルに入れられ、白い壁や卓上で、モノトーンの挿絵イラストとともにリズミカルに配置されています。また、 定番のムーミン・マグは、通常アラビア社のTeemaシリーズのホワイトマグにプリントされていますが、アラビア社からはその他にもムーミン模様をあしらったカップや器などが過去に販売されており、展示会場ではそれらのアイテムもひと通り見て回ることができます。

会場の中心の机ブースに置かれているのは、今現在もっとも広く知られている、主要キャラクターの一体一体をモチーフとした現行のスタンダード・コレクションたち。今日まで、年々新しいキャラクターが加わったり、既存のキャラクターのパターンが一新されたりしていて、その都度ファンたちをお店に走らせます。この展示ブースでは見慣れた商品そのものだけでなく、完成品の色やデザインが決まるまでの試行錯誤の軌跡までもが展示されていて、なんだか制作秘話をこっそり耳打ちしてもらっているような優越感に浸れます!では、具体的には誰が、どのようなプロセスで、これまでのムーミン・マグのデザインを決定してきたのでしょうか……?

カップをたくさんかかえたムーミンの巨大イラスト
カップをたくさんかかえたムーミンの巨大イラストが入口の目印
歴代のムーミンマグたち
歴代のマグたちが透明のカプセルのなかに入り、律動的に展示されている
歴代のムーミンイラスト
イラストの出典から色の試行錯誤のプロセスも垣間見ることができる
1990年代に発売された、貴重な初代のムーミンマグ
1990年代に発売された、貴重な初代のマグが並ぶ一角
Teemaシリーズがベースになったシリーズ
Teemaシリーズがベースになったポピュラーなシリーズ以外の貴重な過去作品も
2014年発売の新作ママ・マグの色が決まるまで
2014年発売の新作ママ・マグの色が決まるまで。試作段階では目をつぶっていた!?
原料の土からプリントマグカップができるまでの課程
原料の土からプリントマグカップができるまでの課程
子どもたちがオリジナルマグを描いて遊べるコーナー
子どもたちがオリジナルマグを描いて遊べるコーナー

歴代ムーミン・マグのデザイナーはすべて1人の女性だった!マグのデザインが決まるまで。

実は、これまで世に送り出されてきた総数60以上にのぼるムーミン・マグのデザインパターン、さらにはアラビア社やフィスカルス社などからこれまで販売されてきた、ムーミンキャラクターが描かれたありとあらゆる食器や雑貨のデザインを手がけているのは、たった一人の女性デザイナーなのです。彼女の名前は、トーヴェ・スロッテさん。1957年生まれで、もともと陶芸家としてアメリカやローマでも経験をつんだことのあるデザイナーです。アラビア社との仕事を始めたのは、ムーミン・マグが誕生する5年ほど前から。1989年よりムーミンをモチーフとした作品のプリントデザインを一手に引き受けることになり、これまでに、計300点ものムーミン関連のデザインを手がけているのだそう。

トーヴェ・スロッテさんのインタビュー動画
歴代ムーミン・マグのデザインをすべて一人で手がけてきたトーヴェ・スロッテさんのインタビュー動画が映写され、その下にスロッテさんのワーキングデスクの雰囲気が再現された一角
椅子の上に座らされたムーミン人形
椅子の上に座らされたムーミン人形、実際の作業場にもちゃんといるようです
スロッテさんの、色鉛筆や絵筆など大切な仕事道具
手作業を好むスロッテにとっては、色鉛筆や絵筆が大切な仕事道具

会場内には、そんなトーヴェ・スロッテの普段のワーキングデスクの雰囲気を再現した一角があり(椅子に座っている大きなムーミンのぬいぐるみは、実際にはスロッテの席のお向かいに座らせてあるようです)、さらに壁には、彼女が製作プロセスについて語るインタビューをまとめた興味深い映像が映写されていました。そして会場内のあちこちにさりげなく飾られた、彼女自身の作品スケッチ。これらを見て回ると、いつも何気なく手にしている色とりどりのムーミン・マグが、どんなプロセスのなかで次々に生まれてきたのかがよくわかります。
スロッテのインタビューによると、彼女は自称アナログ人間なので、デザイン画を仕上げるところまで一切パソコンは使わないとのこと。手で書き上げた最終図案を、アラビア社のスタッフがデザインプリンティングの版に作り変えているのだそうです。

海水パンツ姿のムーミンをモチーフに、図案を組み立てていくようす
コミックのワンシーンから切り取られた海水パンツ姿のムーミンをモチーフに、図案を組み立てていくようす

まず下絵を決めるにあたって彼女は、トーヴェがこれまでに作品(小説、コミック、その他どこかに描き残したイラスト)のなかで実際に描いていたキャラクターたちの動きや表情を抜き出して、忠実に描き起こします。

トーヴェ100周年記念マグの6個に1個だけ内側に描かれた眼鏡イラスト
今年発売され話題になった、トーヴェ100周年記念マグの6個に1個だけ内側に描かれた眼鏡イラスト。これも見せ方の試行錯誤の跡がスケッチに残っている

メインモチーフのおよその配置が決まったところで、次に小物や背景描写を決めていきますが、これらも基本的にはトーヴェ自身のイラストからイメージを転写します。ただし、必ずしもメインモチーフと同じイラストや描写シーンから抜き出すわけではなく、異なるシーンから抜き出されたモチーフ同士がひとつのマグのなかで組み合わせられていることも、少なくありません。また場合によってはスロッテ自身が、原作を参考にしながら何かを描き加えたり、原画をマグの面に収まるよう加筆修正したりもします。

イメージを固めていく様子
実際のマグサイズの帯状モノクロ画を何枚も用意し、実際に塗り絵をしてイメージを固めていく
何色もの別の色で試行錯誤が繰り返される
最終案が決まるまでには、何色もの別の色で試行錯誤が繰り返される

そして図案が大方決まれば、次は色の決定段階です。もともとムーミンのオリジナルイラストは白黒で描かれてきたので、アニメや絵本で知れ渡っている主要キャラクターの服や髪の色以外の部分や背景色は、彼女が創意を加えていくことになります。最終案を決めるために、スロッテはマグと同じサイズの白黒画を何枚も用意し、色鉛筆やサインペンで塗り絵をしては実際にマグに巻いて雰囲気を確かめて……というふうに何パターンもの試作を重ね、図案の微調整も適宜おこないながら、決定案を煮詰めていくのだそうです。

こうしてひとつひとつ、愛情深く手作業で作られていくムーミン・マグの制作現場を垣間見ると、ムーミン・マグへの愛着がよりいっそう深く強くなりますね。最後に、あなたはこれを知ってる?持ってる?のレアマグをもういくつかご紹介!

96年まで販売されたマグ・ブルー
1990年に初代ムーミン・マグのひとつとして発表され96年まで販売されたマグ・ブルー
2002年までの間販売されていたクリスマスグリーティング・マグ
1997年から2002年までの間販売されていたクリスマスグリーティング・マグ
2005年に2005個限定で生産された幻の作品、デイドリーミング
2005年に2005個限定で生産された幻の作品、デイドリーミング
百貨店ストックマンの150周年を記念して作られた淡色の限定マグ
2012年に百貨店ストックマンの150周年を記念して作られた淡色の限定マグ

TEXT : こばやしあやな

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