コラム&インタビュー

現地インタビュー

気鋭のマルチデザイナー ヨナス・ハカニエミが語る、良いデザインの定義とは?

写真:2015年4月から、ユヴァスキュラ市の中心にある歴史あるビルの一室にオフィススタジオを移したハカニエミ氏。取材をしたのはちょうどその引越し直前で、「この可能性を秘めた真っ白な空間が今の自分らしいから」と、本人たっての希望であえて空っぽのスタジオで対談や撮影をおこなった。

国内外で活躍するフィンランド人のデザイナー・クリエイターたちの多くは、やはりヘルシンキを中心とした首都圏を活動拠点とし、利便性の良い場所に住居やアトリエを構えています。けれどなかには、首都圏から離れたのどかな地方都市に根を張ってのびのび暮らしながら、それでいて活躍ぶりは世界に注目されている……というマイペースかつグローバルな個性派クリエイターもいるのです。

今回インタビューに応じてくださった、マルチデザイナーのヨナス・ハカニエミ(Jonas Hakaniemi)氏もまさにその代表格。椅子や照明などインテリア製品から、かばんなどのファションアイテム、企業ロゴやカタログ、さらにはサウナ室や展示会の空間まで、私たちの身の回りのありとあらゆるものを「デザイン」してしまう、彼の万能で切れの良い仕事ぶりが年々注目度を高めています。まさに多彩なジャンルの企業が、ハカニエミ・デザインによって自社製品の新たな可能性を引き出してもらおうと、次々にラブコールを送ってくるのだとか。そして世界有数のデザイン大国フィンランドにて名声を得た彼の作品は、海を渡り日本や世界各国にも着々と輸出が進んでいます。

今年3月にはヘルシンキのデザインフォーラム内ショールームにて、ハカニエミ氏の多彩なデザインワークの数々やアイデアの原型が垣間見えるスケッチを集めた単独展示会が公開され、認知度がさらに全国的に押し上げられました。


国内有数のデザインシーン発信スポットとして知られるデザインフォーラムでの展示会のようす【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

展示会では、ハカニエミ氏がこれまで手がけてきた、あらゆるプロジェクトの成果が2フロアにおいて一挙紹介された

疑いのない追い風を受けて、もちろん多忙な日々を送るハカニエミ氏ですが、いまだに自宅やオフィススタジオがあるのは、トレンドや刺激に満ちたヘルシンキから約270kmも北上した先にあるフィンランド中部地方の中核都市、ユヴァスキュラ市。ヘルシンキに比べたら人口も5分の1程度で、中心街でさえも湖や森と隣合わせという穏やかな地方都市を売れっ子デザイナーが離れない理由とは?さらにあらゆる「デザイン」という行為を貫くハカニエミ氏の信念や、デザイナーという肩書を背負いながらの穏やかな日常生活や素顔について、北欧じかん読者に宛ててたっぷりお話をきかせていただきましたので、以下お楽しみください!

まずは、幼少期から今日のご活躍ぶりに至るまでの経歴やデザインに目覚めたきっかけなどを、お聞かせください。

僕の両親はともにフィンランド人ですが、自分が生まれた時には、一家はスウェーデンに暮らしていました。とはいえ5歳の時にフィンランドに移り住んだので、スウェーデン滞在中の鮮明な記憶や影響というのはほとんどありません。またフィンランド国内で幼少期を過ごした場所は、言ってしまえば何もない地方の片田舎でしたから、そんな外的刺激の少ない環境で幼少期の自分が一番影響を受けたのは、両親それぞれの技術職の魅力でした。

父親は金属加工を、母親は裁縫を職としており、特に母親の影響でいつしか自分も使いこなすようになったミシンは、今日の大事な仕事道具のひとつでもあります。妻の留学を機に短期移住したイギリスにも、マイミシンだけはちゃんと抱えていきましたから。現在愛用しているカバンも、自分のためにデザインして縫ったオリジナル品なんです。
とはいえ、父親の仕事ぶりにも憧れはあったし、少し年の離れた姉は、自分の本を出すという夢を追って本当に物書きになった。そんなさまざまな「もの作り」への意欲にあふれる家族のなかで育った自分は、素材や道具やフィールドに捕らわれず、とにかく何か新しいものを生み出すという作業それ自体に魅了され、あれこれ手を広げていって今に至ります。

高校卒業後はまず新聞社や広告代理店でしばらくイラストやグラフィックの仕事に携わり、30歳になろうかという時に、国内の美術学校の家具デザイン科への進学を決意しました。そこからは、ようやく世のデザイン学生や駆け出しのデザイナーが歩む軌道上に乗って、学業や舞い込む仕事をひたすらこなしながらここまで来た……という感じでしょうか。


ハカニエミ氏が日頃向き合っているデスクのようす。Mac2台を同時に駆使してデザイン作業をおこなう【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

母親の影響で、今も作品のモデルづくりやプライベート用のアイテム制作に活用しているミシン【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

ズバリおうかがいします。今や世界からの注目も熱いデザイナーが、なぜ今なお首都から離れた地方都市を拠点とし続けているのでしょう?

ユヴァスキュラに最初に越してきたのは、出版社で働き始めた91年のことでした。自身が育った田舎町の規模からすれば、ここだって立派な都市。それでも、中心街さえ森や湖に接しているし、静けさも得られやすいし、心地よく暮らすという点では、ここと比べればやはりヘルシンキや首都圏は少し賑やかすぎます。

もちろん、ビジネスを意識した時に、首都との接点をもたずにはやっていけません。けれど、フィンランドは小さい。ヘルシンキまでなんて、移動手段を選べばあっという間に訪問できるでしょう。もっと言えば、世界のどこにだって、今の御時世必要があればすぐに飛んで行ける。だったら、日々の暮らしの根を下ろす場所は、心地よさで選ぶのも悪くないんじゃないかな。特に家族ができてからは、父親としてその意識が高まりました。

結局、美術学校に通ったりイギリスに短期滞在していたときを除けば、なんだかんだで20年ちかくこの街に生活拠点を築いて今に至ります。それにこうした地方都市にビジネス拠点を持ち続けることで、少なくともこのエリアの企業やクライアントとの絆は強まるし、信頼度も高められる。実際、ユヴァスキュラには高いマーケティング技術やグローバル視点を持ったユニークな企業も少なくないので、そのようなクライアントとの良縁がきっかけとなって、自分のデザインが全国へ、そして海外へと進出していくことだって充分に期待できるのです。ユヴァスキュラ発のデザイン家具メーカー、マイコルメ・デザイン社から販売され、今や日本でも買い求められるようになったILOAチェアがその好例ですね。


フィンランドの湖水地方の中心に位置し、首都からはやや離れるが住み心地の良さに定評のある街、ユヴァスキュラ市

ユヴァスキュラを本拠とするマイコルメ・デザイン社から販売され、世界で注目を集めるILOAチェア【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

これまで、プロダクト、企業ロゴ、空間とあらゆるジャンルのものを「デザイン」してこられましたが、すべてのデザイン作業に共通する姿勢やコンセプトはありますか?ハカニエミ氏にとって、「良いデザイン」の定義とはなんでしょう?

まず何をデザインするのであれ、その出発点はいつでもクライアントの依頼やリクエスト条件です。初期段階での先方の具体的なイメージ、予算、納期などすべての前提条件を受け止めた上で、誰よりもまずその依頼者が満足してくれる仕上がりを目指して、考えを巡らせ始めます。その上で、僕自身があらゆるデザイン作業の課程で重視しているのが、時代の波にとらわれない持久性と、 ビジュアルと機能のスマートな折衷、という観点です。

持久性というのは、タイムレスであるかどうか……すなわち何十年先でも飽きることなく使い続けてもらえるか、製品自体もそれくらい保ちが良いかどうか、という視点です。同時に、制作過程や素材の調達の持続可能性も視野にいれるべきでしょう。

後者については、世の中のどんなものにも、見やすさ、座り心地、書き味…といった何らかの役割や目的が求められますよね。そのような明白なニーズを満たすための設計はもちろんですが、さらに形状や素材などに独自の工夫を加える事によって、より使い勝手がよくなったり、別の使い方もできたり、生活を楽しくしてくれるような全く新しいものを生み出す可能性を期待されているのが、デザイナーという職業ではないでしょうか。特にビジュアル面の魅力について考えるとき、僕はそれを「装飾を付加する」というやり方で満たそうとはしません。むしろ、余計なディテールを削いでいって、素材やフォルムが一番美しく見えるところで手をとめる、その判断のタイミングで自分の脳力が試されていると思っています。ベストなのは、見栄えの良さを生み出している要素が、同時に機能性を支えていること。2013年にラハティセット社からリリースされたフェルトバッグのシリーズは、ビジュアルのアクセントになっている革紐が同時にフェルト製の鞄の底の強度や形状を支えており、この理想をシンプルに満たすことに成功したので気に入っている作品のひとつです。

また製作過程でクライアントに案を説明するときには、わかりやすく魅力のある図面やモデルを見せることも大切ですが、一番大事なのは言葉でのコミュニケーションではないかと考えます。本来の自分は、つい何でも自分1人で解決したり先に進めたがる性格なのですが、仕事上では相手ととにかくたくさん話を交わして、自己満足でなく、あくまでクライアントが心から満足する完成品を目指すようにしています。だから、ひとつの仕事が終わった時のなによりのご褒美は、他でもなくクライアントから聞かせていただく喜びの声や市場での反響なのです。


マッチ箱の開閉シルエットから着想を得て在学時代に発表したボックスライトは、国際的に注目されプロダクトデザイナーとしての出世作となった 【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

UPWOODデザイン社から発売されたばかりの、枝の節を接いだようなシルエットが楽しい卓上ランプTwig【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

地元ユヴァスキュラ市に委託されてデザインを提供した、ユニークな形状の公共ベンチ【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

ウフトゥアデザイン社から発表されたデザインサウナも、ハカニエミ氏がトータルプロデュース【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

ハカニエミ氏本人が満悦する、ラハティセット社から販売中のフェルトバッグシリーズ。鮮やかな色とスリムな革紐との対比がとてもエレガント【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

仕事現場でのこだわりや仕事外の日常について、お聞かせいただけますか。
デザイン作業がはかどる時間帯や、作業中に欠かせないお供、インスピレーションの収集方法、休日の過ごし方や仕事以外に熱く語れることなど……

スタジオの机に向かういわゆる勤務時間は、普通のサラリーマンと変わらない程度で、基本的に週末はきっちり休みます。けれど頭のなかには常に現在手がけているプロジェクトの事があって、家で何かしていてもふいに手をとめて考え事を始めては、家族に注意されることも。思いついたアイデアや、よいな思った他者のアイデアは、今進行中のプロジェクトに役立つ如何に関わらず、その都度スケッチブックに描き出すことでストックしていきます。
いわゆる仕事道具以外で手元に不可欠なものは、ラジオとコーヒー。作業内容にもよるけれど、基本的に好きなラジオ番組や音楽をかけながら、穏やかでポジティブな気持ちで机に向かうほうが作業もはかどります。コーヒーは、フィンランド人としては普通だと思うけれど、ちょっと中毒気味かも…っていうくらい一日何杯も飲んでリラックスします。サウナも、疲れた心身をリセットするのに大事な時間。僕の作品自体がフィンランドらしいかどうかの判断は難しいけれど、少なくともライフスタイルはフィンランド人らしいと見られるのかも。
仕事外で今一番大切なのは、やっぱり家族です。二人の子供ができて、 規則正しい生活リズムを共にしたり、幼稚園からの送り迎えをしたりするようになってからは、もともと超夜型人間だったのだけど勤務時間やスタイルも変わってきましたね。娘がピアノを習い始めたのをきっかけに、僕自身もしばらく離れていた器楽演奏をまた始めてみたり、郊外のアウトドアも楽しめる公衆サウナに家族で出かけたり、新たな楽しみや喜びも増えました。


展示会でも壁にずらりと公開された、これまでのアイデアスケッチの数々

家族揃ってサマーコテージで夏季休暇中【写真提供:ヨナス・ハカニエミ】

最後に、ここまでのキャリアの総括、そして今後のビジョンについてお聞かせください!

今回のヘルシンキでの展示会開催は、自身が美術学校に入り本格的にデザインという道を志した年から、ちょうど10周年にあたります。この10年を振り返ってみれば、大学で学び、憧れのデザイナーの事務所で働く機会を得、念願の独立を果たして自分のオフィスを構え…そしてその間に、さまざまなジャンルのデザインに携わる機会をいただきました。デザイナーの駆け出しとしては、順風満帆といってよい最初の10年であったと思います。ここまでの経験で得られた自分の強みは、なんといってもマルチ・デザイナーとしての引き出しの多さや、柔軟な思考力とアイデア創出力。これをさらに磨いて、来るもの拒まずでどんどん新たな仕事に挑んでいきたいし、街や国を越えて自分のデザインしたものを届けるようなビジネスに携わっていきたいですね。

ヨナス・ハカニエミ(Jonas Hakaniemi)

http://www.jonashakaniemi.com/

TEXT : こばやしあやな

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